読書感想: 「本所深川ふしぎ草紙」宮部みゆき 著

 名人芸、宮部みゆき様の短編集、時代物。大好きな短編集です。読後に心の中で宝石のようにいつまでも輝きます。ダイヤじゃない、心が温かくなる、真珠かな。

 吉川英治文学新人賞を受賞しています。お江戸の町で起こる不思議な事件を、回向院の茂七が解決する話。

 読んだ後しばらく余韻に浸っていたのが、「片葉の芦」。 一代で繁盛店を築き上げ、けち、鬼と影口きかれる父親に反発する跡取り娘。自分の力で生きてきた父親に取っての「助ける」意味と、生まれた時から金持の娘でけちと陰口きかれる父親に反発する娘にとって助けるための「恵」む事の違い。その違いを娘は理解できていないと両方と接し悟っている番頭さん。助けられ感謝する貧乏人の娘と、恵まれて焦がれる若者。立場も生き様も違うそれぞれの人間の感じ方の違い。

 読後、人情の機微を思い小一時間眠れなくなりました。わずか、40ページの短編ですが、本物の上質な作品です。

 読者が、結婚前の反抗期のお嬢さん、子育て中、そして親を見取った後、女の人生で3回読み直したら、3回とも読後感が異なるでしょう。この作品を書いた時、宮部様はまだ30代だった。いかに早熟で、人情の機微に触れていたか、その豊かな感性にも驚きます。落語から学んだのであれば、私も遅まきながら勉強しなければと今までの怠惰を反省します。

 たぶん、この短編は、時を経ても忘れられず、何かの折にふっと胸に浮かぶ話の一つになるでしょう。まだ30代なるかならずで、すでに山本周五郎賞の候補作品をかける作家さんだったのです。

 まだの方は是非、ご一読ください。

 

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本所深川ふしぎ草紙 (新潮文庫)

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