読書感想: 「かまいたち」宮部みゆき 著

 ベストセラー作家の宮部みゆき様の間違いない短編集、時代物です。 1987年と初期に書かれた短編を直した中短編集です。

 「かまいたち」、書き物勉強している人、シナリオライター目指している人は是非おすすめします。作品的に、シナリオにしたらと妄想しやすい作品です。主人公のおようが夜半に辻斬りの現場を目撃してしまいます。そこから二重三重に侍社会の思惑が、長屋に住む町医者の娘のおようの命を危険にさらします。途中実験的に会話だけで書かれています。そこが、映像にするとなると、どう撮るのか、様々な可能性がある作品です。複雑にからみあいストーリが進むので、濃厚接触を禁じられている現在でも映像の切り貼りで作っていける、どんな作り方をしようかと考えながら読むのも面白い。

 電車の中で、日常のオンオフのリセットには、、、、お勧めできないのです。短編です。内容も、プロットも、しっかり者のおようの設定にも間違いない。

 実験的に会話が挿入されているのですが、それが???

 ミステリーだから、良いのでしょうか。

 小説としては、読後感がどうも不完全燃焼。会話の前にもう少し描写がないと、読者は完全おいてけぼり。

 書いている人は、頭の中で人物が動き出して、好き勝手に動き初めて筆が走るときがある。おそらく登場人物が頭に浮かんでいて会話しているのをそのまま文章にしたのでしょうか。ですが、読者には事情がわからず、作中人物全員の名前をリストアップして手元に置いているわけでもなく、おそらく満員電車の中でつり革につかまり片手で単行本をめくっている読者の記憶力がかなりおぼつかないことを忘れている。私は読書に没入し過ぎて、急行で乗り過ごしてしまいますが。。。

 作家は、小説として成功させたいのか、プロットを成功させ映像化させたいのか。読書中のもやもや??を楽しませたいのか。

 多作で想像力豊かに江戸の長屋の生活を描ききる宮部様の作品を一読の上、自分ならここで一行書き足すとか考えながら再読するのも良い作品です。天才宮部様の作品を読みながら後戻りして読み直すというのは、初めての経験です。ということは、ミステリーとしては成功しているのかしら?単に時間で動くのが常の貧乏な都会人の疲れた頭には不向きな短編というのが妥当でしょうか。というわけで、この短編集は、電車の中ではなく、じっくりと時間がある時に読むのに良い短編集です。難解なプロットなので、電車でちょっとでは無理です。一粒で二度、映像化されているなら三度楽しめる短編です。

 「迷い鳩」「騒ぐ刀」は、後年、霊験お初捕物シリーズとして長編に書き継がれた初期作品です。1987年に書かれた歴史文学賞候補作になったそうです。後年、その登場人物にて、1994年に長編として描かれています。これは、作家が成熟し江戸時代の虚構の世界を活写する筆力を得ていく過程の作品として、読み比べるのも非常に楽しい。

 この単行本の末尾に宮部様のあとがきがあるのですが、そこに「モー駄目。やめさせてください」と音をあげたと書かれています。これで二度目のやめたいとあとがきで見かけました。(長編小説「孤宿の人」だったかな)

 読者からすれば、独特の流れるような語り、ユニークで思わず笑ってしまう描写も、驚異的作品量、内容をひねり出す作家にすれば、苦しみの連続であるのかと長い年月をかけて作品を書き上げる苦労が慮れます。

 10年の歳月をかけた熟成される宮部ワールドの読み比べにもお勧めする短編集です。

 

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かまいたち (新潮文庫)

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