この新聞小説は、昭和58年(1983)11月から昭和60年5月まで朝日新聞に掲載されていた。
母がいなくなった。ドナウ川を旅してくると書置を残し。娘の麻沙子は、母、絹子を探しにフランクフルトへと2年ぶりに戻る。そこで以前、留学していた頃に国際結婚に二の足を踏み別れてしまったシギィに再びめぐり合う。ところが探し出した母の絹子は、17才も若い男と一緒だったのだ。母を探し連れ戻す厄介な旅が、なぜか、途中で2組の男女が一緒に逃亡を助け、偶然から旅はドナウ川を下って共産圏行かなければならなくなる。
下巻の途中から、ただの逃亡物語から、途方もない金額の借金の罠にはまり絶望した長瀬の魂の再生物語へと変わる。死の誘惑からパニック障害を起こす長瀬の描写は、今を生きる私たちにもより身近で誰にでも起こりうる話と理解できます。
読む内に作品のストーリそのものよりも、共産圏で生まれて生きる人々の生活を想像するほうに注意が向いてしまいました。40年前の共産国での旅を描写する部分が、すでに古くもっと自由化されている国に変わっているのをすでに私たちは知っています。それ以上に、庶民の生活はさらに厳しく無慈悲な成人男性の徴兵がなされている事を毎日ニュースで聞かされています。
1983年以前のドナウ川周辺の国々は共産圏だった。作中で1ドルが230円台とあった。
新聞小説は、昭和58年(1983)11月から昭和60年5月まで朝日新聞に掲載
1989年にベルリンの壁が崩壊し、風向きが変わり周辺の国から資本主義を受け入れるようになった。
1991年頃から、人々がこぞって海外旅行に繰り出した浮かれバブル景気が傾きだし、以降、日本は30年以上の衰退期を迎える。
(年代はWikipedia参照しました。)
それゆえに、1983年頃の共産圏を描いた時勢を我々はほとんど忘れてしまったので、すでに古い作品なのだ。今のルーマニアやハンガリーがすでに自由化して、女性でも旅できる時代になっている。共産国の入国、出国の描写がすでに古い歴史的説明文になってしまっているのをつまらない文章ととるか、、、
おりおりに描写される不自由さ、厳格さ、共産圏で生きる監視社会のわずらわしさを、現代も変わらない恐ろしい戦争を強いる国があると他の国に転用して推察するか。
そして、2022年2月 ロシアがウクライナに侵攻を始め、我々は毎日のニュースを見るたびに、やはり共産国の論理は我々とは全く異なる事。そして1年7か月後の現在も侵攻が止められない恐ろしさを日々思い知らされている。
名言は至る所にちりばめられ、思わずうなります。やはり、素晴らしい作家さんです。 田舎町で知り合った自転車にのり配達を続ける郵便配達夫は、言いました。
「人間、自分が死ぬこと以上に大きな問題なんてねェよ」
その国で生きる人々の生きづらさを母、絹子は、
「人間をいじめるものは、いつかきっと滅びるわ」と、哀しげに言いました。
しかし、2023年現在を生きている我々は、今もなお、戦争が続き、ウクライナ、ロシア両国での戦死者数が50万人にも及ぶとニュースが出たばかりである事を知っています。それゆえに、私は、不自由さは0年前に旅をした作家が描くのと、さほど変わりなく、あるいはロシアではよりそれ以上に農村などでは厳しくなっているだろうと推察しながら文章を読みました。
「平和を壊すのは政治家だ。戦争を起こすのは権力者だ。どうしてよその国を欲しがる。民衆がよその国を欲しがったことは一度もない。権力を握ったら、そいつは人の物が欲しくなるのさ。弱い者をいじめたくなる」
40年も前に書かれた新聞小説なので、やはりこれはすでに古い小説で、しかも寄り道が多く長い小説です。ジェットコースターストーリがお好きな方には向きません。宮本輝様の階段を一歩ずつ上がっていくような作中人物の内面の変化の描写は丁寧です。長瀬の失敗から再起するまでの心理描写に、宮本輝様の父の生き様が転用されていると、ここでも人を作るには100年かかると言った作家の人生が垣間みえます。
すでに旅をしてきて現地を思い出したい方には、面白い描写かもしれません。また、人が絶望的な状態から立ち直っていく様を知るのにも良いかもしれません。しかし、40年後の今を知るには、古い情報であり長い小説と言わざる得ません。
上巻は、まだ読みやすかったです。
P66 長瀬を助けてくれた小泉や留学生たちがおもてなしで弾いてくれた。
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ブダペストの薔薇の丘 budapest rózsadomb は、高級住宅地
Google mapでもユーゴスラビアやブルガリアの小さな街になるとストリートビューアがついてないのがわかり、天下のGoogle様でも網羅できない地域がある事は発見でした。さすれば、驚く程の小道までGooglemapで参照できる日本は、戦争にでもなれば、逆に逃げ場もないという事なのかとちょっと違う事を懸念してしまいました。
クラドヴァは巻頭の地図は古く、すでに地図上ではセルビアに国名が変わっています。
スリナのドナウ川の色と主人公麻沙子が感じた風のきつさは感じられる。
↓ 小説書いてます。お読みいただければ幸いです。