この新聞小説は、昭和58年(1983)11月から昭和60年5月まで朝日新聞に掲載されていた。
母がいなくなった。ドナウ川を旅してくると書置を残し。娘の麻沙子は、母、絹子を探しにフランクフルトへと2年ぶりに戻る。以前、留学していた頃、国際結婚に二の足を踏み別れてしまったシギィが母の絹子を一緒に探してくれる事になった。ところが、母は一人ではなかった。17才も若い男と一緒だったのだ。母を探す不思議な旅が、なぜか、途中で2組の男女が一緒に逃亡する事になり、そして、旅はドナウ川を下って共産国にまで行く事になる。
先に久しぶりに宮本様の小説を読む事になり、これほどに旅と主人公の内面の変化を描くのが上手な作家であれば、ヨーロッパを舞台にした作品があったはずと、この本を読みだした。『灯台からの響き』や『田園発宮と行き自転車』で旧北陸街道を旅する描写がGoogle MapやYouTubeを見ながら、旅した気分になり楽しかったからだ。
この上巻は、フランクフルト、ウィーンと本当に旅気分を満たしてくれる作品になっている。相変わらず、女性の心の機微を描くのに上手い作家さんである。
どうして、2年前にシギィを別れて日本に帰ってしまったのかと、女友達に単刀直入に聞かれ
「私、勇気がなかったの。吊り橋を渡る勇気が」
2年前、シギィと別れ、日本に帰る最後の夜に下宿屋の老婦人からは、
「賢すぎる女も、それに愚かすぎる女も、人生を劇のように生きられないわ。~~~ 忘れ物はない?」
この、セリフが、何度も、何度も娘の麻沙子の胸を行き来します。そう、男友達の策略で、偶然にシギィと再会し、そして、そして。。。
上巻の前半までは、若い二人の行き違いがメインだったので、30代の結婚に戸惑い悩んだ経験がある方なら、上手いとうなる文章が見つかります。
後半からは、母の絹子と長瀬の複雑な一筋縄でいかない道ならぬ恋路になります。そして、それが、深淵なドナウ川の逃亡、あるいは朝日を見る旅へとつながります。ここから先は、結婚生活から疲れた経験がある方には、うなづける描写が増えてきます。また、1990年代のバブル、その後の銀行倒産など当時の記憶がある方なら懐かしい、誰でも海外旅行のブームにだった時代を思い出すにも良い内容です。
この作品は、筋を書き込むのに懸命で遊びが少なくて、フランクフルトにいながら、ソーセージにからしを塗りたくって食べるばかりで、あまり、食リポにはなってません。おいしい グリューワインでしょうか。唯一、よだれがでましたのは。
私もドイツのどこかきれいな街並みで飲みました、ホットワインは名物だったと覚えていますが、甘くはなかったような気がします。
上巻まではのんきに、YouTubeなんぞ見ながら、週末読める作品となっております。40年前の文章で、現在、Vivantなどテレビドラマもジェットコースターの脚本でないと、視聴率が稼げない時代になっておりますので、これは、じっくり内面を描写する文章をワインを飲むように味わいたいお方にお勧めします。
しかし、下巻の共産圏になりますと、ご時勢でございます。40年後の世界は、一回りして、また元に戻そうと戦が起きて終わらない。いろいろと考える内容になっております。
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