読書感想: 「無双の花」葉室 麟 著

 時は戦国末期、豊臣秀吉より西国の無双と称えられた筑後柳川十三万石の領主、立花宗茂が、関ヶ原の戦いで豊臣方につき負ける所から始まります。長い牢人時代を耐え、徳川家康にその律儀さこそ乱世を終わらせ太平の世の模範とせよと認められ、敵方であったにも関わらず取り立てられるまでの紆余曲折を描いています。その武勇を人たらしの秀吉に「無双」と称えられた男。豊臣が滅ぶ乱世に巻き込まれず動静を見極め、権力を握った徳川が太平の世を作ろうとしていると、必要な技能が変化していく時代に「無双の花」を咲かせてみせましょうと耐えた。与えられた役を勤め忍従の物語。

 立花宗茂は武に優れただけでなく、時代の変化に気付き対応できる柔軟性、知性もあり、そして己を律した。だから徳川の時代になっても生き残れた。

 長いサラリーマン生活を生きたから書ける一冊です。それを淡々と描いています。現代のサラリーマンに通じる忍耐、時流を読む眼が感じられる。ここに時代物が人気の理由がある。

 男性の作家で、新聞記者を長く勤め、50代になって本腰を入れた作家さんです。文章は固く、史実に基づき丁寧に積み上げていく、年配の男性が好みそうな文体、そして内容です。

 女性からすると、戦国の女性の生き方がステレオタイプで、もう少し破天荒な女性に描いてもとも思いましたが、作家さんは1950年代生まれの九州男児、破天荒な女性がまわりにいなかったお行儀の良い一族のご出身なのでしょうか。九州地方の女性は、かなり個性豊かな女性が多いのですが、、、

 私なら、正室が大阪で無類の女好きの豊臣秀吉の誘いを何とかしりぞけ、あげく当てつけのように夫には側室を賜った。ありがたく頂くしかない政治の道具として使わされた若い女にすぐに夢中になってしまった夫に対して、久しぶりのご帰還の際にも正座して「おかえりなさいませ」なんて、できないですね。

 家臣がいなくなったら、つと膝を崩し甘えて見せて、「さて、ご領主様におかれましては、この長い間のご不在の間、慰みとしては何にご執心でございましょうか」

 正室は白い華奢な指で酒をさらに勧めながら、唇の端をかすかに上げて笑顔を作ってみせた。

 なんて、乱世に生き残る政治の難しさを頭では理解しながらも、どうにも複雑な女心と、領主でありながらも、幼なじみの正室の前でたじろぎ、それをどううまくやり過ごそうかと考え、酒でもこぼすか、むせるか、とにかく、何か書きますね。慌てながら言葉をひねり出す夫を見つめる正室の視線がどう変わっていくか、、、

 こういう遊びは一切ございませんの。。。

 しごく真面目な作家さんが書いた時代物です。

 

にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
にほんブログ村

無双の花 (文春文庫)

無双の花 (文春文庫)

  • 作者:葉室 麟
  • 発売日: 2014/07/10
  • メディア: 文庫