読書感想: 「天狗風」霊験お初捕物控【二】宮部みゆき 著

 時代物のエンターテイメントです。今風で言えば霊視能力を持つお初が奉行様の特命を受け、江戸の街で起こる不可解な神隠しの真相をさぐり、消えた町娘を取り戻す物語。

 宮部みゆき様のリズムを刻むような安定した文体、読んでいても気持ちの良い助け合う兄弟の岡っ引き六蔵夫婦。そして、ちょっと頼りない右京之介とのあっさりとした恋模様がからみます。宮部様は、書ける筆力はお持ちなのですが、惚れたはれたはごくあっさり。それよりも、言葉を話す猫の鉄が登場し新風を吹き込みます。妄執にこりかたまり天狗風と化けてしまった化け物から、かどわかされた娘を生きて取り戻せるだろうか。

 前作の「震える岩」からお初さんのファンになった方には必読の本です。時代劇ですから、少しある残忍な描写も決して怖くはありません。長編ですが、内容がエンターテイメントなので通勤電車でも読めます。

 普通、これだけ安定した人物設定で、捕物であれば、プロットは次から次へと浮かぶはずなのですが、1995年の発表以降、第三部の発表がないようです。逆に言えば、せっかく構築したこれ程、イマジネーションが沸き上がるほどの世界でさえも、こだわらずに次の新世界を創造しえるほど多くの引き出しを持っている。ストリーテラーのエベレスト級、宮部みゆき様は本当に発想力に恵まれたすごい作家です。

 お初の次なる難事件解決の仔細も是非読みたい。25年後でも続編を書いていただきたい、その位、読んで楽しいエンターテイメント時代物でございます。

 

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新装版 天狗風 霊験お初捕物控 (講談社文庫)

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