読書感想: 「孤宿の人 」宮部みゆき 著

 ベストセラー作家、宮部みゆき作品の長編小説。

 時代小説で、女の子が主役の小説は初めて読みました。従い、時代物に慣れない女性でも読めます。阿呆のほうと名付けられた、親にも見捨てられた女の子が生き残れるか、最後までどきどきします。連載小説等では、結末だけ突然急いで書きあげてしまい、最終章だけなぜか宮部節が変わってしまう、などという事もある宮部様です。しかし、これは最後まで宮部節が変わる事なく、それが大好きな読者には、かなり高評価になると思います。乾いた男性作家の文章が好きな方は、逆にそれが苦手でしょう。

 讃岐を舞台にした、幕末の実在の人物から着想を得た、架空の国の話です。ある幕臣の蟄居の面倒を押し付けられた小藩内の士分の思惑。庶民、漁民の頑迷な程の迷信。それらがからまり翻弄される、親なし子の阿呆の「ほう」、誰も守ってくれる者がいない弱者へも情をかける者。切り捨てる者のからみあう思惑。それに、作者の圧倒的筆力と美しい風景描写。文頭の一行から、物語の世界へ没入できます。 

 上下巻の長編ゆえ、速読でも一晩では無理です。従い、三連休以上の睡眠時間を確保できる時の、作品世界にひたれる贅沢なタイムトリップが可能な時のお供にお勧めします。通勤の小一時間にはお勧めしません。

 よるべないみなし子の命が心配。サラリーマン社会で思うように動けない切なさ。無力感。良い奴なのに浅慮な者。虐げられるだけで軽く扱われる庶民、それが存外にもしたたかだったりして、登場人物の誰かに読者が共感せざる得ない、宮部みゆきの描写がさえています。

 個人的に残念なのは、最後の最後で、、、江戸時代だと身分制度だから、、、こういう終わり方にするのか。

 あと、下巻のあとがきが、なんと、あの児玉清様でした。あれれ、あの懐かしい男優。そう懐かしい。文章を読みながら、お人柄がしのばれ、別な意味で貴重な読書時間となりました。

 

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孤宿の人(上) (新潮文庫)

孤宿の人(上) (新潮文庫)

 
孤宿の人(下) (新潮文庫)

孤宿の人(下) (新潮文庫)

 

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