小説: わんぐっどてぃんぐ 第一部 戦中編 第六章 非情なジャングル-3

 冷たい水が顔にかかり権太は気が付いた。見上げると炊事班長が水筒を手に立っていた。
 「他の者と離れすぎては、まずい」
 起きろと促されたが、権太は首を振った。
 「俺はここで洋二郎様と一緒に死にます。ほおっておいてください。洋二郎様をこんな所で一人にしていくわけに行きません」
 どすんと殴られ、権太は気を失い、暗い洞窟の中を洋二郎様を探して歩く夢へと落ちていった。

 

 権太は、誰かに腰に紐をつけられ引っ張られて歩く。背中には、洋二郎の血の気のない頭がごつんと音をたて権太の肩にあたる。ジャングルで川辺に着くと、権太は必死に手を洗った。洗っても洗っても手に血がついている。
 腹が減ると横に花お嬢様が竹皮に包んだおにぎりを権太に手渡そうと笑顔を向けてくださっている。


 「おお、おお」
 自分の叫び声で夜中に目を覚ますと、そこは洞窟ではなくジャングルだ。
 また誰かに命令されるまま、権太は歩きだす。背中で洋二郎の頭が揺れる。誰かが伏せろと言えば、権太は伏せる。起きろ、見上げると佐藤炊事班長殿だ。権太は起きた。田所歩け。歩く。田所しっかりしろ、食え。食う

 

 目の前が突然光った。敵軍が爆弾を落として爆風がすると火の手が上がった。権太は思わず小さくうずくまった。炎が激しく上がり、白い煙に息ができない。這って逃げ出せ、声に従う。煙で何も見えない。やがて灰が白く舞って見える。
 
 花お嬢様が踊っている。

 花様のまわりだけきらきらと光の渦が巻き起こっている。権太は白装束を着て舞う花の手をつかもうと、手を伸ばした。

 

  第七章 空襲そして敗戦


 「花、花、しっかりしなさい。手を伸ばして、こっちに」
 佐和は気を失った花を何とか引っ張り出そうと、必死に声を張り上げた。


  

 

 ↓ 過去発表ブログ 第一部 戦中編 (第四章へのリンクも末尾につけました。)

 

わんぐっどていんぐ: 第二部 帰郷編

わんぐっどていんぐ: 第二部 帰郷編

 

 kindleunlimitedでお読みいただけます。

 ぜひ、感想やお気づきの点、お知らせください。よろしくお願いします。