読書感想:宮本輝 様 『異国の窓から』ハンガリー編 人生を変える出会いの不思議さ

 このエッセイは、宮本輝様が、昭和58年(1983)11月から昭和60年5月まで朝日新聞に掲載された新聞小説『ドナウの旅人』のために取材旅行のエッセイである。

 それが、面白すぎて、なんと一晩で読み切ってしまった。

『異国の窓から』ウィーン編からの続きです。

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1983年当時、ベルリンの壁倒壊1989年前のハンガリーに入国する際には、入国審査が厳しかった状況が記されています。

 -- Wikipediaより抜粋 --    

1989年11月に独立。1990年代、ハンガリーはヨーロッパ社会への復帰を目指して改革開放を進め、1999年に北大西洋条約機構NATO)に、2004年に欧州連合EU)に加盟した。ハンガリー - Wikipedia

 

 ここで、40年前はアメリカのたばこの方が現金よりも価値があり、タクシー運転手同士で喧嘩があった。ジプシーがかなでるヴァイオリンの音色が泣いているように聞こえた。ジプシーの楽団が奏でた最後のさびの部分で、宮本さんを5人が見つめて歌った歌詞は、

 「愛した人の瞳は黒かった」

 土地の名産のパリンカという桃や杏で作った食前酒が、実はウオッカと同じ度数の酒だった。タクシーの中につるされた大きなパンから大家族の食卓を連想など、旅行中に実際起こった事がそのまま小説に転用されています。これらから創造していく様を想像しながら読むには、先に『異国の窓から』を読んでから、『ドナウの旅人』下巻を読むほうが楽しかったと思います。小説は40年前のハンガリーなので、自由がきかなくてストリーに遊びがなくなっているので、むしろ文化史として読むに値する内容になっています。

フルーツを惜しみなく贅沢に使ったハンガリーの蒸留酒「パーリンカ」 - ippin(イッピン)

 

 そして、何よりもびっくりしたのは、たった数日ハンガリー日本語の通訳をしてくれた青年を、宮本さんが日本に留学させて家に来いと青年の父に会いに行くくだりです。青年は、イギィのモデルではないかと思いながら読んでました。あまり親切でない人が多いハンガリー人のなかで、相手の気持ちを思いやり行動できる青年だったから、日本に留学する際の引き受け人になっても良いと1,2日で決断させた何かきらめきがあったのでしょう。

 青年の父上は、最初、突然の引き受け人の申し出にとまどい、二人の話を聞くとやがて了承した。貨幣価値が違う資本主義国への不可能とあきらめていた留学の話に、どのようにその好意に報いたら良いのかと尋ねる父に、宮本さんは何も必要ないと答えます。(『異国の丘』、p115)  読んでいて、ジーンとしました。

 「あなたは、私という人間を信じられますか」 

 「すでに信じています」

 

 

 そして、そして、何とその日本語もたどたどしい青年が、後年、出世して駐日ハンガリー大使として2度も日本に帰ってくるのです。若い宮本様を天才だと見抜き売れない作家の貧乏時代に支えた池上さんも目利きですが、その受けた恩を返そうと異国の通訳の青年を選んだ宮本様も目利きでございます。

「神戸は第二の故郷」駐日ハンガリー大使 歓迎会を生田神社で開催 | 神戸っ子

 

 このいきさつでブログ書きたくて、国を分けました。この青年との出会い、そして、留学生として決める作家のほぼ直観のくだりを読むだけで、人と人との出会いの不思議さ、その後の青年の出世ぶりを見ると類は類を呼ぶとはまさにこの事でしょう。

 

 ハンガリーは今では女性一人旅もできる程に自由化され、YouTubeも沢山でています。

  しかし、40年前は、出国の際は銃口を向けられ、ユーゴスラヴィアでは

「余計な口はきくな」とにらまれた。

 国境の駅では、うっかり、写真を撮ったためパスポートを取り上げられるという大きなトラブルに巻き込まれる事になるのも、作中に転用されています。

 

www.youtube.com

 

 ブタペストで人が住む家を見たいという宮本さんの願いは、おそらく、この高名なエスペラント語の権威であるイシュトーヴァン家が滞在した地域ではないのかと、そうとは書いていませんが推察しておりました。

 

麻沙子が住みやすいと気に入り、絹子が健康のために毎日川べりを散歩した薔薇の丘の映像は、下の方に出てきますが、捻挫したばかりの足でこの坂は無理ではないかと、余計な老婆心。長いので、ざっくり風景だけなら3番目のYouTubeをどうぞ。さすがに高級住宅地と言わしめる眺めです。

 6:00 宮本様も目になさったのか、薔薇の丘からの眺め

[4K] Panoramic Walk in Rózsadomb - Budapest Hungary 2021 - YouTube

Budapest, Rózsadomb, kilátás - YouTube

 

P.S ハンガリーから日本の宮本様のご自宅に住み留学する事になった、青年との交流がわかる手紙が、P256にあります。その後の留学生活は、『彗星物語』にも書かれているらしいので、次の11月の休みに再び読もうと思ってます。若い時に読んだはずですが、おそらく通勤電車の中で読み飛ばしているので細部を忘れています。

 

『異国の窓から』ユーゴスラヴィア編は、次回に続きます。

 

ーーーー『ドナウの旅人』 上巻は、まだ読みやすかったです。ーーー

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