読書感想:宮本輝 様 『異国の窓から』ウィーン編

 このエッセイは、宮本輝様が、昭和58年(1983)11月から昭和60年5月まで朝日新聞に掲載された新聞小説『ドナウの旅人』のために取材旅行のエッセイである。

 それが、面白すぎて、なんと一晩で読み切ってしまった。

『異国の窓から』西ドイツ編からの続きです。

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日本の多くの女の子が尋ねる、「ウィーンの森」はどこですか?

「街中いたる所の木々の下です」には、笑いました。

 

 ウィーンに向かうヨハン・シュトラウス号の食堂車での写真が巻頭にあります。何か食べた割に、今回、よだれがでるような描写が少ないのは、この作品を執筆していた頃は酒が優先で、食べ物に目がいかなかったせいかもと残念です。食堂車で何食べたの?何?おいしかったに違いないのです、絶対。

 

 作中、母を逃亡に駆り出した長瀬が逃げたのを捕まえてかくまってくれた小泉のモデルは、小坂君ですね。ウィーンの留学生です。間違いない。作家の中で、現実がいかに転用されていくかが、本当に面白い。ウィーンのオペラハウスでの仲間内での相談が、係員に邪険に止められたのは宮本様自身の実体験。作中人物、母の絹子が転んで足を捻挫した階段は、4:00以降ですね。長瀬やシギィが話混んでうるさいと叱られた回廊は、オペラに興味がなければ、確かに見てまわりたいほど豪華です。

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 労をねぎらおうと何か買ってお礼しようとする新聞社社員と宮本輝様の100$を渡す、渡さないというやりとりは、多分、お金や食べ物にも事欠いた戦後生まれの苦労人と、10年以上若く生まれて高度成長期に親がかりで学校出て就職した人の感覚の違いだろうなと読んでました。感情のひだが大雑把な人っています、男女関係ない。

 「外国で生活していると、お金が一番頼りになります」

 男の小坂君は女性には言いづらい弱音にもとれる本音が父親程の年齢差がある宮本さんには言えたのだろうと、そして、このいきさつをそのまま小説に使うからプロです。なんせ、小坂君は、コップの水が氷るような厳しい生活を耐え、旧式のストーブが付いている下宿に引越できてありがたいと言うような、厳しい異国でフルートを研鑽している苦学生です。このいきさつも、戦後を生き苦労した経験のある宮本様だから、わかる人情の機微だと思い読みました。

 

 同行者の恩人の池上さんが高熱を出して、パジャマがぐっしょりになりベッドの下に着替えが散乱するのは、そのまま、主人公の麻沙子に転用されています。しかし、同室の宮本様は決して、あのように、余計な所を優しくなでまわすような着替えの手伝いはしていないでしょうから、小説は創作です。のはずです。おじさん二人ですから、想像もしたくありません。

 

 ウィーンは観光名所で、私も是非、一度行ってみたい街なのですが、留学生が多くて、そんな事になっているのかとは、現地に行った方の考察でしょうか。ピアニストの挫折。作家ですから、耳をダンボにして、いろいろ聞いたに違いないのです。

 

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 おしゃれ女子には、下記のYouTubeも良い。ウィーンの紹介ビデオは沢山あります。

Austria Wien/オーストリアウィーン1日観光vlog - YouTube

楽家目線は、プロの指揮者の高名な佐渡裕様。小説とはあまり関係ない。

佐渡裕とウィーン街歩き 音楽ファン必見の裏話満載! Vienna Sightseeing with Yutaka Sado! - YouTube

 美しい街ですね。私も行きたくなる。 

 

 旅先で、心づくしの小坂君のおにぎり。すごい嬉しくて、米が固い位覚えてもいなかったのでしょうね。日本からの両親からの届け物を全部使いきるような細やかな心がけの男ですから、その後、フルート奏者として認められるようになったとの一文に、安堵いたしました。おばちゃんは、若者の活躍が何よりうれしいのです。

 

『異国の窓から』ハンガリー編は、次回に続きます。

 

ーーーー『ドナウの旅人』 上巻は、まだ読みやすかったです。ーーー

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