短編が3篇収められています。よしんば、あなたがその薄さに手軽に通勤電車で読もうと思っても、もったいないです。土日で読めます。それゆえに、贅沢な自分への時間として、ゆっくりひたれる時間を確保して、1ページをめくってください。
その位、読みだしたら、もう、あなたは宮部みゆき様ワールドへ一直線で落ちていきます。止まりません。
面白い、娯楽作品です。
ただし、読後感に胸に残るのは、ご奉公に勤める、男の人生ってなんて健気だろう。
女って、哀しい。
時は今、8月15日を前に、ニュースは健気な青年が、片道切符で飛行機に乗っていく、そのお別れの手紙。お母さまはくれぐれもご無事でありますように、ありがとうございました。
ニュース聞いただけでも、泣けてくるのです。
すると作品の兄弟の別れ、手押し車に揺られる兄の姿。兄の胸中。
結末を知ってから、もう一度、この別れを読み直すと、こういう男たちに支えられた日本なのだと、このような短い短編の中にも、男たちの命をかけたご奉公に涙がこぼれます。
残りの2編は、哀しい女たち。本当に、哀しいが、これは実際、現実にあった事だろうと思います。そこにファンタジーを練りこみ、物語を紡いでいく。
そして、最後に、お客様に来ていただき、他の誰にも言えない話を誰かに伝えたい話を聞き捨てにする三島屋の富次郎さんに別れ際に男が言う言葉。
「百物語なんかしていると、この世の業を集めますよ」
この一文に、鳥肌がたちました。
聞けば、宮部様は、法律事務所で書記のようなお仕事を5年程なさったそう。それも、場所が風俗店が近かったとありました。
時代は江戸時代、それでも、現在でもありそうな話。胸が痛くなるような現実に、我々庶民の願望が織り込まれて、読後感は、そう、哀しい。胸に残る短編です。
それゆえに、量的には短くても、是非、ゆっくりと堪能していただきたい作品でございます。
↓ 小説書いてます。お読みいただければ幸いです。