2020-01-01から1年間の記事一覧

小説: わんぐっどてぃんぐ 第一部 戦中編 第七章 空襲そして敗戦-3

佐和は、銀行家からの使いの者の背中に型とおりの会釈をすると、まるで汚れを払うように、蔵の戸を開けた。まだ焼け跡の煙くさいが、風が入ってきた。 さっぱりとした。 破談を告げにきたのだ。花が火傷を負い臥せっている噂は、すぐに伝わった。 戦争がこん…

小説: わんぐっどてぃんぐ 第一部 戦中編 第七章 空襲そして敗戦-2

花を焼け残った蔵に寝かしつけると、房に医者を呼びに行かせた。早くに手当をしなければならなかった。まずモンペが張り付いている燃えかすを肌からはがそうとすると、花は絶叫をあげた。 佐和はどうしたものかわからなかった。右もものやけども広範囲だった…

小説: わんぐっどていんぐ 第一部 戦中編 第七、八章

過去に発表してきた小説をまとめました。第七章は、下の3番目からです。 わんぐっどていんぐ 第一部 戦中編 第一、二、三章 わんぐっどていんぐ 第一部 戦中編 第四、五、六章 <第七章> <第八章> ksfavorite.hatenablog.com ksfavorite.hatenablog.com …

読書感想: 「幸福な王子・忠実な友達(The Devoted Friend)」オスカー・ワイルド 著

昨夜、「忠実な友達」を読んでしまい、今朝もまだ胸が痛い。 子供の頃、絶対読んだはずの童話だ。まさか、ここまで胸かきむしられるとは思わなかった。1880年発表の「幸福な王子」と他の童話の後の方に載っている物語だ。 発端は、穴ネズミの独身男が、友情…

読書感想: 「嵯峨野花譜」葉室 麟 著

固い文章です。一章ごとに読みやすいので、通勤電車15-20分でも読めます。 行間から、どれほどの情景、趣を読み取る事ができるか。余計な葉を落とされた生け花を愛でるように、読み手が行間をくみ取る本です。 実在の人物の、歴史に刻まれてないであろう側…

小説: わんぐっどてぃんぐ 第一部 戦中編 第七章 空襲そして敗戦

「花、花、しっかりしなさい。手を伸ばして、こっちに」 佐和は気を失った花を何とか引っ張り出そうと、必死に声を張り上げた。爆音がし、閃光の次に物が砕け散る。炎が上がる。煙が臭くて、呼吸が苦しい。手を伸ばす。後、もう少しの所に花の手があった。名…

私見: コロナ禍でデモ、お家に帰っておいで

思った通り、アメリカのデモはさらに混迷が深まっているようだ。他国の事ながら、子供の頃から憧れたアメリカの負の部分を見せつけられるのは、何とも気持ちが悪い。日本だってこの30年も経済は低迷し、東日本大震災だの、大雨、川決壊だの、熊本地震だの…

小説: わんぐっどてぃんぐ 第一部 戦中編 第六章 非情なジャングル-3

冷たい水が顔にかかり権太は気が付いた。見上げると炊事班長が水筒を手に立っていた。 「他の者と離れすぎては、まずい」 起きろと促されたが、権太は首を振った。 「俺はここで洋二郎様と一緒に死にます。ほおっておいてください。洋二郎様をこんな所で一人…

私見: 自叙伝のすすめ 戦中戦後の女の記憶

先日、尊敬する宮本輝様の「流転の海」第9部「野の春」を読んだ。その際、流行作家は、この父母の経験も血肉にして多くの作品を残したと実感した。 昨日、偶然にも母が亡くなった祖母の自分史を見つけたと手渡してきた。祖母が亡くなってもうすでに14年たつ…

小説: わんぐっどてぃんぐ 第一部 戦中編 第六章 非情なジャングル-2

洋二郎が前に短刀を置いた。 「できません」 権太は、がくんと膝をつくと、大声で喚いた。 「許してください。できません」 権太は洋二郎を止めようと、その肩にむしゃぶりついた。そばの上官達が権太を引きはがした。 「洋二郎様、そんな事いけません」 権…

読書感想: 「野の春」宮本輝 著

大好きな作家です。ベストセラー作家が生まれるには、「100年かかる」。 作中、5部か6部か父「熊吾」が、まだ作者である「伸仁」が子供だった折に語り聞かせた言葉からだ。「人を作るには100年かかる」。 そして、宮本輝という本人曰くストリーテー…

私見: コロナ禍でデモ、Come up with a better way.

子供の頃から英語が大好きだった。アメリカは憧れだった。お金を貯めては、貧乏旅行を繰り返し西海外サンフランシスコの路面電車に乗った時、ニューヨークでミュージカルを初めて見た時、本当に嬉しかった。 それがいつの間にか、アメリカの拝金主義が許せな…

私見: コロナ禍でデモ、常識が通じない世界

朝起きて、PCを立ち上げニュースを見て、固まってしまった。 アメリカの暴動が、欧州にまで飛び火してしまったそうだ。 コロナで死亡者数が人口の10万人あたり30人以上とアメリカのウィルス感染は恐怖に近いだろう。日本人はわずか0.8人程度で怯え、マ…

小説: わんぐっどてぃんぐ 第一部 戦中編 第六章 非情なジャングル

燃え残った兵糧を詰めるだけつめ、ジャングルに逃げ込んだが、想定以上に早く食料は尽きた。生き残った兵も、昼間は見つからないように身を潜め水や食料を探し、夜ひそかに煮炊きをしようと試みた。敵軍の銃は性能が日本のそれより数段優れており、敵兵の姿…

読書感想: 「かまいたち」宮部みゆき 著

ベストセラー作家の宮部みゆき様の間違いない短編集、時代物です。 1987年と初期に書かれた短編を直した中短編集です。 「かまいたち」、書き物勉強している人、シナリオライター目指している人は是非おすすめします。作品的に、シナリオにしたらと妄想しや…

小説: わんぐっどてぃんぐ 第一部 戦中編 第五章 空爆-2

権太は、娘の元に戻りかけたが、何も伝えられない事に気が付いた。 権太は娘の目をまっすぐ見つめ敬礼をした。娘が立ち上がる。教会の漆喰の壁にろうそくの光を受け、娘の体の影が泣いているように揺れていた。大きくなってきたお腹の上に手を置き、ほっそり…

私見: 緊急事態解除は後が怖い

いよいよ緊急事態の解除のロードマップが東京都より発表されました。レベル1で飲食が10時までOKなど、少し緩すぎるのではないかと恐れています。 日本人に死亡者数が少ないのは、欧米で変異した強毒性が、人数あまり入ってこなかったせいではないかと疑って…

小説: わんぐっどてぃんぐ 第一部 戦中編 第五章 空爆

連合国軍の空襲は日本軍の予想をはるかに超え、反撃する間も与えず焼夷弾をまき散らした。炎で明るくなると次は、適格に建物の上に爆弾を大量に落として行く。洋二郎が書いた地図は、その夜落とされた爆弾で燃え二度と見る事はなかった。 二時間もしない間に…

私見: Windows UpdateのGoogle Chrome無視は暴力だ

ここ3日程、PCが突然ブルースクリーンになってしまう。Internetでは、storport.sysが悪さをしていると、解決策や無料プログラムが沢山調べられた。 フリーランスで翻訳で糊口をしのいで、昔のように会社のヘルプデスクもない。WAN環境でないから、仕事上で見…

読書感想: 「幻色江戸ごよみ」宮部みゆき 著

宮部みゆき様の短編集、時代物、心に染み入る短編集です。前回「本所深川ふしぎ草紙」が心が温かくなる真珠なら、こちらは、クリスタルのように心が凛となります。短編集の割には止まらなくなり寝不足です。 全編に哀しい情緒が流れています。江戸に生きる庶…

私見: コロナの出口戦略は財布と相談

皆様、日々、Stay Home、本当、大変です。コロナの出口戦略、ぶっちゃけ本音トークです。要するに、財布と相談して、飢える位なら、働きにでるしかない。 NYで言えば、トランプ大統領とNY州知事のバトル。経済か、感染予防か。 日本で言えば、ホリエモン…

小説: わんぐっどてぃんぐ 第一部 戦中編 第四章 異国の教会-3

「白湯をお持ちしました」 洋二郎の部屋の前で声をかけると権太は部屋へと入った。洋二郎が紙をひろげ、何やら書き込んでいた。権太を見ると、目で前に座れとテーブルの上の紙に視線を戻した。何をしているのかと湯呑茶碗を脇に置きながら、紙を覗き込むと権…

読書感想: 「本所深川ふしぎ草紙」宮部みゆき 著

名人芸、宮部みゆき様の短編集、時代物。大好きな短編集です。読後に心の中で宝石のようにいつまでも輝きます。ダイヤじゃない、心が温かくなる、真珠かな。 吉川英治文学新人賞を受賞しています。お江戸の町で起こる不思議な事件を、回向院の茂七が解決する…

読書感想: 「天狗風」霊験お初捕物控【二】宮部みゆき 著

時代物のエンターテイメントです。今風で言えば霊視能力を持つお初が奉行様の特命を受け、江戸の街で起こる不可解な神隠しの真相をさぐり、消えた町娘を取り戻す物語。 宮部みゆき様のリズムを刻むような安定した文体、読んでいても気持ちの良い助け合う兄弟…

読書感想: 「無双の花」葉室 麟 著

時は戦国末期、豊臣秀吉より西国の無双と称えられた筑後柳川十三万石の領主、立花宗茂が、関ヶ原の戦いで豊臣方につき負ける所から始まります。長い牢人時代を耐え、徳川家康にその律儀さこそ乱世を終わらせ太平の世の模範とせよと認められ、敵方であったに…

小説: わんぐっどていんぐ 第一部 戦中編 第四、五、六章

毎週発表中の小説のリンクをまとめました。ご一読ください。 わんぐっどていんぐ 第一部 戦中編 第一、二、三章 わんぐっどていんぐ 第一部 戦中編 第四、五、六章 <第七章> にほんブログ村 にほんブログ村 //

小説: わんぐっどてぃんぐ 第一部 戦中編 第四章 異国の教会-2

やがて、洋二郎は娘と親しくなり二人で会えるために小さな家を探しだした。洋二郎はいつしか休みの度にそこに通うようになった。 権太は、世間体が悪いとか、日本の母親への報告など、洋二郎がどう考えているのか、口をはさむべきか悩みもした。しかし、娘を…

読書感想: 「震える岩」霊験お初捕物控 宮部みゆき 著

時代物好きには、たまらない宮部みゆき様、安定のエンターテイメントです。読んで安心、結末でほっこり。夜一人で読んでいても、怖くて読めなくなるような事もありません。(内容もさることながら文庫なら)重くもないから通勤電車でも読めない事もありませ…

読書感想: 「模倣犯」宮部みゆき 著

怖い。ベストセラーだと聞いて5巻まで全部買ってしまったのですが、読めず飛ばし読み。怖すぎて無理でした。 読書って、何のためにするのだろう。ほんの少しでも、豊かな気分になったり、自分の知らない世界でも良い気持ちになったりする。でも少なくとも、…

小説: わんぐっどてぃんぐ 第一部 戦中編 第四章 異国の教会

ある休日に、洋二郎と権太は街はずれの川沿いに建つ教会へと歩いた。 地震で壊れた後十七世紀に再建されたという石造りの教会は、白い壁に太陽の光を受け、目を細めて見なければならないほど輝いて見えた。 洋二郎は高い塔を見上げ、「この鐘楼は海からも見…